コーセー(4922)の株価は、2015年1月20日に9.0年ぶりの高値を更新し、そこから約3年半で+425%、5.2倍になりました。天井は2018年6月18日の26,340円。そこから現在まで、株価は−78.1%(2026年7月27日終値5,756円)です。
この記録が興味深いのは、上昇に十分な業績の裏付けがあった点です。株価が5.2倍になる間に、市場が知っていた利益は2.8倍になっていました。三菱重工のカルテで確認した「利益1.9倍」よりも厚い裏付けです。それでも結末は、三菱重工の−25%に対してコーセーは−78%でした。何がこの差を作ったのかが、この記事の主題です。
先に結論を3行で示します。
- 株価5.2倍の分解=「利益2.8倍 × 評価1.9倍」。上昇の主役は業績のほうで、評価の切り上げは2倍に届いていない
- 利益のピークは2019年3月期(純利益370億円)で、その発表は株価の天井の約10ヶ月後。ここまでは連載の他の銘柄と同じ形
- 分岐点はその後。三菱重工が最高益を更新し続けたのに対し、コーセーの純利益は最も落ち込んだ2024年12月期で75億円(ピークの5分の1)、直近の2025年12月期でも151億円(約4割)にとどまる。上昇時の裏付けの厚さは、その後の結末をほとんど予測しなかった
「大化け株カルテ」は、過去に大きく上昇した銘柄を1銘柄ずつ、外部サービスから取得した株価データ(分割調整後・東証ほぼ全銘柄・概ね2000年以降)をもとに解剖する連載です。今回は、外部環境が作った利益で上がった株が、その環境ごと失われるという型を扱います。
データ更新日:2026年7月27日
⚠ 本記事でいう「高値」は、データでさかのぼれる範囲(概ね2000年以降)での最高値です。同社はそれ以前から上場しているため、1980年代の水準は本記事のデータには含まれません。株価は分割調整後(配当は調整していません)、騰落率は終値ベースで売買コストを含みません(ブレイクから天井までの上昇率のみ、ブレイク日の終値から天井の高値までを用いています)。出来高の25日平均比は、当日を含まない直前25日の平均に対する比率です(公開中の上場来高値データベースは当日を含む25日平均で算出しているため、同じ日でも数値が一致しないことがあります)。業績は会社の決算短信の実績値で、同社は2021年に決算期を3月期から12月期へ変更しています(2021年12月期は9ヶ月の変則決算)。また当連載は大きく上げて天井まで打った銘柄を選んで扱うため、登場するのは常に勝者側(および、その後の顛末)のサンプルです。過去の記録の解剖であり、現在の売買を推奨するものではありません。
コーセーの株価は、この15年でどう動いたか

| 時期 | 出来事 | 株価 |
|---|---|---|
| 2006年1月13日 | この時の高値が、以後9年の上限になる | 4,964円 |
| 2012年末 | 長い低迷 | 1,805円 |
| 2015年1月20日 | 9.0年ぶりに高値を更新 | 終値5,020円 |
| 2015年末 | ブレイクから1年で2倍超 | 11,270円 |
| 2018年6月18日 | 天井(更新から約3年半) | 高値26,340円 |
| 2020年末 | 一度は戻したが、天井には届かず | 17,600円 |
| 2025年11月25日 | 天井後の最安値(終値) | 4,950円(天井比−81.2%) |
| 2026年7月27日 | 現在 | 5,756円(天井比−78.1%) |
注目したいのは、下値をつけたのが2025年11月だったという点です。天井から7年半、株価は戻るどころか下げ続けました。しかもその安値4,950円は、9年間にわたって上限として機能した2006年の高値4,964円も、ブレイク日の終値5,020円も下回っています。この上昇で得たものを、いったん全部返したわけです(現在の5,756円は、そこからかろうじて戻した水準にあたります)。
天井から現在までを日経平均と並べると、この7年半の異様さがはっきりします(いずれも終値ベース)。
| 期間 | コーセー | 日経平均 |
|---|---|---|
| ブレイク→天井(2015年1月〜2018年6月) | +419% | +31% |
| 天井→現在(2018年6月〜2026年7月) | −78% | +186% |
高値を更新した日は、ほとんど無風だった
抜け方の質を、当ブログの目安と突き合わせます。
| 指標 | 2015年1月20日 | 当ブログの目安 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 出来高 | 25日平均の1.02倍 | 2倍以上(出来高の読み方) | ✕ ほぼ平常 |
| 25日移動平均からの乖離 | +5.9% | 30%超で過熱(利確と過熱ライン) | ◯ 過熱なし |
| ベースの深さ(4,964円→3,015円) | 39.3% | 一般に30%前後までが健全(ベース・保ち合いの読み方) | △ やや深い |
9年ぶりに高値を抜けた日の出来高は、直前25日平均の1.02倍——ほぼ平常運転でした。翌1月21日には出来高2倍を超えて高値を更新しており、そこから商いは膨らんでいきます。ブレイク後120営業日での出来高のピークは2015年7月9日(25日平均の3.27倍)で、この時点で株価はすでにブレイク日から+111%でした。
SUBARUのカルテでも同じ現象を確認しました。長く据え置かれた高値を抜ける最初の一歩は、たいてい静かです。連載でここまで扱った6本のうち、更新の瞬間に出来高2倍以上を伴っていたのは三菱重工(2.62倍)と、すでに噴き上げていたさくらインターネット(9.00倍)の2本だけでした。
コーセーの株価はなぜ上がったのか——利益2.8倍に、評価1.9倍が乗った

この連載では、上昇を毎回この式で分解しています。
株価倍率 = 利益倍率 × 評価倍率
コーセーに当てはめます。
| 時点 | その時点で判明していた最新の通期実績 | 純利益 |
|---|---|---|
| ブレイク日(2015年1月20日) | 2014年3月期(2014年4月25日発表) | 111億円 |
| 天井(2018年6月18日) | 2018年3月期(2018年4月27日発表=天井の52日前) | 306億円 |
利益倍率は2.76倍。株価は5.25倍ですから、
株価5.2倍 = 利益2.8倍 × 評価1.9倍
となります。上昇の主役は業績のほうで、評価の切り上げは2倍に届いていません。三菱重工の「5.7倍=利益1.9倍×評価3.0倍」と比べると、コーセーのほうが業績の裏付けは厚かったことになります。
その利益を作っていたのが、当時の物語です。訪日外国人の急増による免税売上、そして中国市場での高価格帯化粧品の伸び——この2つが重なった時期と、株価の上昇局面はきれいに重なります。売上高は2014年3月期の1,900億円から2019年3月期の3,330億円へ、営業利益は189億円から524億円へ伸びました。数字は実際に付いてきていたのです。
天井は、またしても「利益のピークの前」にあった
株価の天井は2018年6月18日でした。一方、利益がピークを打ったのは2019年3月期(営業利益524億円・純利益370億円・ROE18.8%)で、その発表は2019年4月26日——天井の約10ヶ月後です。
SUBARUのカルテでもまったく同じ順序でした。最高益の発表は株価の天井の5ヶ月後です。連載を通じて見ると、扱った6本のうち5本で、株価の天井のほうが最高益の発表より先に来ています(例外は、そもそも最高益が出なかったさくらインターネットです)。サンプル数からして法則と呼ぶには早いものの、繰り返し現れる形ではあります。
では、コーセーの株価はなぜ5分の1になったのか
ここからが、三菱重工との分岐点です。天井の後、両社で起きたことはまったく違いました。
| 天井 | 上昇時の分解 | 天井の後、利益はどうなったか | 現在の株価 | 天井からの経過 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 三菱重工 | 2026年3月 | 利益1.9倍×評価3.0倍 | 過去最高益を更新し続けた(純利益3,321億円・+35.3%) | −25% | 約4ヶ月半 |
| コーセー | 2018年6月 | 利益2.8倍×評価1.9倍 | ピークの5分の1まで縮み、直近でも4割(370億円→75億円→151億円) | −78% | 7年半 |
| さくらインターネット | 2024年3月 | 利益の裏付けはほぼゼロ | 一時改善後、営業赤字に転落 | −74% | 約2年4ヶ月 |
(各社の下落率は、それぞれのカルテの観測日時点の値です。三菱重工は天井からまだ4ヶ月半で、これは途中経過どうしの対比である点には留意が必要でしょう。)
コーセーの利益は次のように後退しました。
| 決算期 | 営業利益 | 純利益 |
|---|---|---|
| 2019年3月期(ピーク) | 524億円 | 370億円 |
| 2020年3月期 | 402億円 | 267億円 |
| 2021年3月期 | 133億円 | 120億円 |
| 2021年12月期(9ヶ月の変則決算・参考) | 211億円 | 167億円 |
| 2022年12月期 | 221億円 | 188億円 |
| 2023年12月期 | 160億円 | 117億円 |
| 2024年12月期 | 174億円 | 75億円 |
| 2025年12月期 | 185億円 | 151億円 |
2022年12月期にいったん戻したものの、そこから再び後退しています。営業利益で見ると、ピークの524億円に対して直近は185億円=約3分の1で、この6年間200億円台を回復できていません(純利益は特別損益で振れやすいため、水準の比較には営業利益のほうが向きます)。
2020年以降は、インバウンド需要の消失、中国市場での日本製化粧品の競争激化と需要減など、上昇の物語を作っていた前提そのものが崩れた期間にあたります。
ここから読めることがあります。上昇時にどれだけ利益の裏付けがあったかは、その後の結末をあまり予測しない——という点です。コーセーは三菱重工より厚い裏付け(利益2.8倍)を持って上がりましたが、結末は−78%と−25%に分かれました。効いたのは上昇時の配合ではなく、天井の後も利益が続いたかどうかだったと考えられます。
そしてもう一段掘るなら、問うべきは利益の「量」ではなく「出どころ」でしょう。コーセーの利益2.8倍は、会社が作った需要というより、外部環境が運んできた需要によるものでした。環境が変われば、利益は同じ速さで消えます。
なお、天井の直前に締まった2018年3月期より後の8期(うち2021年12月期は9ヶ月の変則決算)で、1株あたりの配当は累計約1,170円でした。天井の株価26,340円に対して約4%にすぎません。SUBARUの配当(天井比約23%)とは違い、コーセーの場合は配当を含めても−78%という結果はほとんど変わりません。
天井のサインは「25日線から+12.1%」——ほぼ平常値だった
天井をつけた日、コーセーの株価は25日移動平均を+12.1%上回っていました。当ブログが公開している上場来高値データベース(観測期間2026年1月30日〜)で見ると、上場来高値を更新する瞬間の25日線乖離は中央値11.3%・上位10%が約30%です(地合いで変動します)。+12.1%は、ほぼ中央値——過熱としては何のシグナルも出ていません。
連載で扱った銘柄を、天井の過熱度で並べます。
| 銘柄 | 天井の25日線乖離 | 天井の性格 |
|---|---|---|
| SUBARU | +5.1% | 過熱サインなし |
| 三菱重工 | +8.5% | 過熱サインなし |
| コーセー | +12.1% | ほぼ中央値(サインなし) |
| IHI | +31% | 過熱の上位10%(閾値ちょうど) |
| 三井海洋開発 | +44.2% | 明確な過熱 |
| さくらインターネット | +91.8% | 振り切れたブローオフ |
「30%超で過熱」という目安で捕まえられた天井は6本中3本で、そのうちIHIは閾値ちょうどでした。過熱の物差しは有効な道具ですが、それだけで天井を見分けられるわけではないと読めるのではないでしょうか。
上昇の3年半では、10%を超える押し目がおよそ4回ありました。最大の下落は2015年8月10日(13,620円)から2016年2月12日(8,050円)にかけての−40.9%です。同じ期間に日経平均も−28.1%下げており、いわゆるチャイナショックの局面でした(相場全体の強弱の見方は市場環境のチェック方法にまとめています)。最終的に5.2倍になる株でも、道中で4割の下落に耐える必要があったわけです。2026年7月27日時点のATR(Average True Range:直近の値動きの平均的な幅)は143円で、株価に対して約2.5%です。
この記録の読み方——3つの注意点
第一に、後知恵であることです。2018年6月に「ここが天井で、7年半下げ続ける」と判断するのは困難だったはずです。当時は増収増益が続いており、翌年にはさらに最高益が出ています。
第二に、選択バイアスと生存バイアスです。この連載は大きく上げた銘柄を選んで扱います。当ブログの独自データでは、初回の高値更新日の終値に対する現在値は中央値−2.2%・マイナス側が56.0%(観測期間2026年1月30日〜・含み損益ベースで実現リターンではありません)で、高値を更新した銘柄の多くはむしろ伸び悩みます。
第三に、数値は観測日で動きます。株価・騰落率は2026年7月27日時点、業績は2025年12月期実績までを反映しています。最新の業績は株探などでご確認ください。
このカルテから持ち帰れることがあるとすれば、「その利益は、どこから来ているのか」という問いだと思います。会社が作った利益か、外部環境が運んできた利益か。後者であれば、環境が変わったときに同じ速さで消えます。大きく下げた株がそこから戻れるのかについては、80%下げた株はもう戻らないのかで別途データを取っています。
次の候補は、今日のデータから探す
当ブログでは、毎営業日の引け後に上場来高値を更新した銘柄と、更新が間近の銘柄を記録した無料のデータベースを公開しています。コーセーを解剖したのと同じ物差し——出来高25日平均比、25日線乖離、ベースからの位置——で、その日の銘柄がどんな更新なのかを見分けられます。
あわせて読むと、この記録の位置づけがはっきりします。
- 三菱重工の株価はなぜ5.7倍になったのか:裏付けは薄かったのに、天井の後も最高益を更新し続けた例
- IHIの株価はなぜ5倍になり、なぜ半値まで戻したのか:赤字からの反転で上がり、最高益のまま下げた例
- SUBARUの株価はなぜ5.5倍になり、そこから10年戻らないのか:上昇のほぼ全部が利益だった、純粋な利益主導型
- 「高値間近」の銘柄は本当に高値を更新するのか:昇格率と昇格までの日数を独自データで検証
- 80%下げた株は、もう戻らないのか:大きく下げた株が旧ピークに戻る確率と年数
- 上場来高値とは?:年初来高値・52週高値との違い
免責事項:本記事は過去の株価データと公表済みの決算にもとづく観測の記録であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。記載した数値は当ブログが独自に算出した概算を含み、正確性・完全性を保証するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任において行ってください。(免責事項)


