PR

日本M&Aセンターの株価はなぜ21倍になり、そこから−82%になったのか|高値更新からの記録

大化け株カルテ

日本M&Aセンターホールディングス(2127)の株価は、2013年3月13日に6.1年ぶりの上場来高値を更新し、そこから7年8ヶ月かけて+2,035%、21.4倍になりました。天井は2020年12月1日の3,785円。そこから現在まで、株価は−81.8%(2026年8月28日終値688円)です。

中小企業のM&A仲介を手がける会社です。この21.4倍の期間に、通期の純利益は16.1億円から102.7億円へ増えました。本記事は、株価と公表済みの決算だけを材料にします。

この記録が「大化け株カルテ」のなかで際立っているのは、下げの理由を業績のなかに一切見つけられない点です。天井の時点で判明していた通期純利益は102.7億円。直近の2026年3月期は124.9億円で、過去最高です。天井からの6期で減益はたった1期。それでも株価は5分の1になりました。

先に結論を3行で示します。

  • 株価21.4倍の分解=「利益6.4倍 × 評価3.4倍」利益倍率6.4倍はSUBARUの6.8倍に次いで連載2位で、上昇の主役は評価ではなく利益だった
  • 逆分解=「株価0.182倍 = 利益1.22倍 × 評価0.15倍」評価は6.7分の1。連載でこれほど極端に評価だけが縮んだ例はほかにない
  • 天井には過熱サインが出ていなかった。天井の25日線乖離は+18.7%で当ブログの過熱目安28%に届かず、上昇の7年8ヶ月(1,884営業日)で28%を超えたのはわずか2日、しかも最後に鳴ったのは天井の7年6ヶ月前だった

「大化け株カルテ」は、過去に大きく上昇した銘柄を1銘柄ずつ、外部サービスから取得した株価データ(分割調整後・東証ほぼ全銘柄・概ね2000年以降)をもとに解剖する連載です。今回は、業績がずっと良かった株が、それでも5分の1になったという記録を扱います。

データ更新日:2026年8月28日

⚠ 本記事でいう「上場来高値」は、データでさかのぼれる範囲での最高値です。この銘柄の株価データは上場した2006年10月から記録されており、上場後の全期間をカバーしています。株価は分割調整後(配当は調整していません)、騰落率は終値ベースで売買コストを含みません(ブレイクから天井までの上昇率のみ、ブレイク日の終値から天井の高値までを用いています)。出来高の25日平均比は、当日を含まない直前25日の平均に対する比率です(公開中の上場来高値データベースは当日を含む25日平均で算出しているため、同じ日でも数値が一致しないことがあります)。業績は会社の決算の実績値です。2007年の前の高値と2013年の更新日の終値は、表示上はどちらも177円ですが、実際の値は小数点以下まで異なります(本記事の倍率はすべて丸め前の実額で計算しており、表示は小数第1位または第2位に丸めています)。また当連載は大きく上げて天井まで打った銘柄を選んで扱うため、登場するのは常に勝者側(および、その後の顛末)のサンプルです。過去の記録の解剖であり、現在の売買を推奨するものではありません。

日本M&Aセンターの株価は、この20年でどう動いたか

時期出来事株価
2006年10月上場
2007年1月29日上場から約3ヶ月半でつけた高値。これが以後6.1年の上限になる177円
2012年末低迷6年目120円
2013年3月13日6.1年ぶりに上場来高値を更新終値177円
2015年末更新から2年9ヶ月で4.1倍732円
2018年12月25日道中の最安値。2018年3月13日の1,960円から半値近くまで戻される1,022円(−47.8%
2019年末1,882円
2020年12月1日天井(更新から7年8ヶ月)高値3,785円
2021年11月15日二度目の高値。天井まであと−1.1%高値3,745円
2022年末1,629円(天井比−57.0%)
2023年末778円(天井比−79.4%)
2025年4月7日天井後の最安値(終値)490円(天井比−87.0%
2026年8月28日現在688円(天井比−81.8%)

上がり方が、連載のほかの号とかなり違います。7年8ヶ月というのは、この連載でオリエンタルランドの11.5年に次いで長い上昇です。3ヶ月で5.7倍になったさくらインターネットや、6ヶ月で3.5倍になった三井海洋開発のような噴き上げではなく、7年以上かけて階段を上がり続けた形でした。

そして、その階段は平坦ではありません。上昇の途中で10%を超える押し目を約15回くぐっています(連載で確認できた範囲では最多です)。最大の下げは2018年3月から12月にかけての−47.8%。同じ期間の日経平均は−12.8%ですから、地合いの下げの3倍以上の深さを個別事情で被っています。21.4倍を持ち切るには、道中で一度、半値近くまで戻される経験が必要だったということです。

天井から現在までを日経平均と並べます(いずれも終値ベース)。

期間日本M&Aセンター日経平均
ブレイク→天井(2013年3月〜2020年12月)+1,936%+119%
天井→現在(2020年12月〜2026年8月)−80.9%+148%

市場が2.5倍になる5年9ヶ月のあいだに、株価は5分の1になりました。地合いのせいにできる下落ではありません。

高値を更新した日、当ブログの目安はどうだったか

抜け方の質を、当ブログの目安と突き合わせます。

指標2013年3月13日当ブログの目安判定
出来高25日平均の3.34倍2倍以上が基本目安・1.5倍以上が最低ライン(出来高の読み方基本目安を大きく上回る
25日移動平均からの乖離+26.8%28%超で過熱=上位10%(利確と過熱ライン過熱の一歩手前
ベースの深さ(177円→84円)52.4%理想は30%前後まで=浅く丸い形(ベースカップウィズハンドル✕ 深い

出来高だけを見れば、連載でもっとも「教科書どおり」に近い抜け方の一つでした。連載10本のうち、更新の瞬間に出来高2倍以上を伴っていたのは4本しかありません。

銘柄ブレイク日の出来高(25日平均比)
さくらインターネット9.00倍(ただし更新時点で25日線+48.7%=すでに噴き上げの途中)
日本M&Aセンター3.34倍
三菱重工業2.62倍
第一三共2.21倍
(残る6本)1.02〜1.74倍

さくらインターネットの9倍は「静かなブレイク」ではなくすでに過熱した噴き上げの最中の出来高でした。その点この号は、商いを伴いながら、まだ過熱域に入りきっていない位置で抜けています。出来高という一点では、連載で最良の部類です。ただし、次に見るようにベースの深さは目安から外れています。3指標のうち当ブログの目安を満たしたのは、出来高だけでした。

一方でベースは深めです。連載10本を深い順に並べると、こうなります。

銘柄ベースの深さブレイク日の25日線乖離
さくらインターネット77.1%+48.7%
ペッパーフードサービス75.9%+32.3%
三井海洋開発62.2%+15.7%
IHI61.1%+20.6%
SUBARU53.5%+8.3%
日本M&Aセンター52.4%+26.8%
三菱重工業51.0%+15.5%
第一三共42.7%+17.6%
コーセー39.3%+5.9%
オリエンタルランド30.5%+6.2%

ちょうど真ん中です。ただし、深さが52.4%あるのに乖離が+26.8%まで来ているという組み合わせは、この号に固有です。上位の2本(さくら・ペッパーフードサービス)と同じく「深く沈んだところから一気に戻して抜けた」形に近く、ベースとブレイクアウトで説明した「浅く丸い形から静かに抜ける」という理想からは離れています。

もっとも、抜けた直後の値動きは素直ではありません。ブレイクの翌営業日から、株価はブレイク日の終値177円を割り込みます。割り込んだ日は最初の1ヶ月で16営業日あり、最安は2013年4月2日の158.75円=ブレイク比−10.5%(ブレイクの13営業日後)でした。

「高値更新で入ったら、まず含み損だった」という形は連載3本目です(第一三共・ペッパーフードサービスも同じ形でした)。最終的に21.4倍になった銘柄でも、入口の1ヶ月は報われていません。ただし割り込んだのはこの1ヶ月だけで、天井をつけた後の5年9ヶ月をふくめて、それ以降は一度もブレイク値を下回っていません。天井から−82%まで下げた現在の688円ですら、ブレイク日の3.88倍です。

株価はなぜ21.4倍になったのか——「利益6.4倍 × 評価3.4倍」

株価の倍率は、次のように分解できます。

株価倍率 = 利益倍率 × 評価倍率

「利益倍率」はその時点で市場が知っていた通期利益が何倍になったか、「評価倍率」は1円の利益に市場がいくら払うかが何倍になったか、です。

  • ブレイク時点(2013年3月)で判明していた最新の通期=2012年3月期・純利益16.1億円
  • 天井時点(2020年12月)で判明していた最新の通期=2020年3月期・純利益102.7億円

株価21.4倍 = 利益6.4倍 × 評価3.4倍

(倍率は丸め前の実額で算出しています。表示は小数第1位に丸めているため、6.4×3.4のように掛け合わせても21.4にはなりません)

利益倍率6.4倍は、SUBARUの6.8倍に次いで連載2番目です。上昇の主役が評価ではなく利益だった号は、この2本が代表になります。参考までに、これまでの号の分解を並べます。

銘柄株価倍率利益倍率評価倍率
日本M&Aセンター21.4倍6.4倍3.4倍利益主導型(利益倍率は連載2位)
ペッパーフードサービス15.2倍3.8倍4.0倍利益と評価が半々
オリエンタルランド11.6倍2.5倍4.6倍評価主導型
三菱重工業5.7倍1.9倍3.0倍評価主導型
SUBARU5.5倍6.8倍0.8倍もっとも純粋な利益主導型(評価はむしろ縮んだ)
コーセー5.2倍2.8倍1.9倍業績の裏付けが厚い型
第一三共4.7倍3.8倍1.2倍SUBARUに次いで純粋な利益主導型

上昇の中身は、実際の増益でした。

決算期売上高営業利益純利益
2012年3月期60.1億円27.7億円16.1億円
2014年3月期105.5億円54.5億円33.4億円
2016年3月期147.8億円70.0億円48.4億円
2018年3月期246.2億円116.1億円81.5億円
2020年3月期320.1億円142.5億円102.7億円
2022年3月期404.0億円164.3億円114.4億円
2023年3月期413.2億円153.0億円98.4億円
2024年3月期441.4億円160.7億円107.3億円
2026年3月期502.6億円187.6億円124.9億円

太字が、それぞれのピークです。売上・営業利益・純利益のすべてが、直近の2026年3月期で過去最高——つまり3つとも、天井より5年以上あとにピークがあるという形になっています。ペッパーフードサービスでは営業利益のピークが天井の1年後に来ましたが、この号ではそれがまだ更新され続けている最中です。

上昇局面の8期で、純利益は16.1億円から102.7億円へ。年率にすると+26.1%/年の複利成長です。株価はそれを上回る速度で上がりましたが、その差(評価倍率3.4倍)は「1円の利益に払う値段」が3倍強に切り上がった分にあたります。

天井には、サインが出ていなかった

天井をつけた日、株価は25日移動平均を+18.7%上回っていました。当ブログが公開している上場来高値データベース(観測期間2026年1月30日〜)で見ると、上場来高値を更新する瞬間の25日線乖離は中央値11.0%・上位10%が約28%です(地合いで変動します)。+18.7%は、中央値は超えているものの、過熱の目安には届いていません。

連載10本を天井の過熱度で並べます。

銘柄天井の25日線乖離天井の性格
SUBARU+5.1%過熱サインなし
オリエンタルランド+8.1%中央値以下(サインなし)
三菱重工業+8.5%過熱サインなし
第一三共+8.6%中央値以下(サインなし)
コーセー+12.1%ほぼ中央値(サインなし)
日本M&Aセンター+18.7%中央値超だが過熱目安(28%)に届かず
IHI+31.2%過熱の上位10%(約28%)を超える
三井海洋開発+44.2%明確な過熱
ペッパーフードサービス+51.2%明確な過熱
さくらインターネット+91.8%振り切れたブローオフ

ここまでは、ほかの大型株の号と同じ話です。この号が特異なのは、その先です。

ブレイクから天井までの1,884営業日のうち、25日線乖離が+28%を超えた日は2日しかありません。しかも、その2日はどちらも2013年5月——ブレイクからわずか2ヶ月の、上昇のごく初期に固まっています。最後に鳴ったのは2013年5月14日、天井の2,758日前(7年6ヶ月前)でした。つまり、株価が21.4倍になっていく7年半のあいだ、当ブログが使っている過熱の物差しは一度も警報を出しませんでした。

これは持つ側から見れば良い性質です。「過熱したら降りる」というルールで運用していたら、この銘柄では最初の2ヶ月に一度だけ判断を迫られ、そのあとは7年半ずっと保有し続けることになります。21.4倍を最後まで取れた、という言い方もできます。ただし、天井でも降りられません。

もうひとつ、この号には二度目の高値があります。天井をつけた349日後の2021年11月15日、株価は3,745円まで戻しました。天井まであと−1.1%です。その間には−32.7%の押しを挟んでいます。そしてこの二度目の高値をつけた日の25日線乖離は+7.2%——完全に静かな高値でした。

一度目の天井にも二度目の高値にも、値動きの側からの警告はなかった、というのがこの銘柄の記録です。IHI・三井海洋開発・さくらインターネット・ペッパーフードサービスのように「乖離が振り切れて崩れる」型を見慣れていると、この静かさは不気味に映ります。

日本M&Aセンターの利益は崩れていない——縮んだのは評価だけ

天井の後、株価と業績がどう動いたかを重ねます。

下向きの階段が、どこにもありません。天井の後に判明した通期純利益を順に並べると、106.8億円→114.4億円→98.4億円→107.3億円→109.6億円→124.9億円。減益は2023年3月期の1期だけで、それも−13.9%です。そして直近が過去最高です。

その各期の決算が世に出る頃、株価がどこにいたかを実測します。期末から40〜50日後という決算発表の通例にあたる期間の終値を、そのまま並べたものです。

通期の中身その決算が世に出る頃の株価(天井比)
2021年3月期=純利益106.8億円(当時の過去最高)−32.7%〜−26.8%
2022年3月期=純利益114.4億円(過去最高を更新)−65.9%〜−62.4%
2023年3月期=純利益98.4億円(この6期で唯一の減益)−73.6%〜−71.3%
2024年3月期=純利益107.3億円−79.9%〜−79.5%
2025年3月期=純利益109.6億円−83.4%〜−82.3%
2026年3月期=純利益124.9億円(過去最高)−83.3%〜−82.6%

⚠ 決算の発表日そのものは本記事では特定しません。上表は「3月期決算なら期末から40〜50日後」という一般的な発表時期にあたる営業日の終値レンジです。

最高益を出すたびに、株価は一段下にいました。2022年3月期に過去最高を更新した頃には天井から6割超、2026年3月期にさらに過去最高を更新した頃には8割超の位置です。ペッパーフードサービスの号では「利益が崩れたのは株価に2年遅れていた」と書きましたが、この号では利益がそもそも崩れていません。減益を待つという方法では、この銘柄からは降りられません。下げが始まったあとも、通期利益の水準は増え続けていたからです(伸び率の側には変化が出ています。これは次章で扱います)。

天井から現在までを、上昇と同じ式で分解します。

  • 天井時点(2020年12月)で判明していた最新の通期純利益=102.7億円
  • 現在判明している最新の通期純利益(2026年3月期)=124.9億円

株価0.182倍 = 利益1.22倍 × 評価0.15倍

(倍率は丸め前の実額で算出しています)

連載10本を同じ式で逆分解し、評価倍率の小さい順に並べます。

銘柄天井→現在の株価利益倍率評価倍率
日本M&Aセンター0.182倍1.22倍(増益・過去最高)0.15倍
オリエンタルランド0.53倍1.51倍(増益)0.35倍
第一三共0.47倍1.29倍(増益)0.36倍
三井海洋開発0.59倍1.62倍(増益)0.36倍
IHI0.59倍1.43倍(増益)0.41倍
コーセー0.22倍0.49倍(減益)0.45倍
ペッパーフードサービス0.025倍0.04倍(営業利益・消失)0.57倍
三菱重工業0.77倍1.35倍(増益)0.57倍
さくらインターネット0.35倍0.32倍(減益)1.09倍
SUBARU0.51倍0.35倍(減益)1.46倍

⚠ 利益倍率は原則として純利益ベースですが、ペッパーフードサービスだけは直近の純利益がマイナスで倍率にできないため営業利益ベースです。各号とも「天井の時点で判明していた通期」と「現在判明している最新の通期」を比べており、比べる期は銘柄ごとに異なります。数値はいずれも2026年8月28日時点。

評価倍率0.15倍——6.7分の1です。表の下2本(さくらインターネット・SUBARU)は逆に評価が1倍を超えており、これは「利益が半分以下になったのに、市場が払う値段はむしろ上がった」型です。オリエンタルランド・第一三共・三井海洋開発・IHIは、この号と同じ「利益は増えたのに株価が半分前後」という形ですが、そこでの評価は0.35〜0.41倍でした。この号はその半分以下まで縮んでいます。連載10本で、評価だけがこれほど一方的に下げを作った例はほかにありません。

⚠ ただし、評価倍率は「株価倍率 ÷ 利益倍率」で求めた従属量です。0.15という数字それ自体に独立した意味があるわけではなく、「利益が1.22倍に増えているのに株価が0.182倍になった」という2つの事実を1つの数に言い換えただけです。そのうえで、この言い換えが役に立つのは、下げの原因を業績のなかに探しても見つからないことをはっきりさせる点にあります。

なお、天井の後に確認できる配当は6期で合計136円(分割調整後)で、天井の株価3,785円に対して**3.6%**です。配当を足しても、結論は変わりません。

市場が払っていたのは、利益ではなく成長率だった

では、評価だけがなぜ6.7分の1になったのか。株価データと決算だけで言えることは、利益の水準ではなく、利益の伸び率が変わったという一点です。

局面期間通期純利益年率
上昇局面2012年3月期 → 2020年3月期(8期)16.1億円 → 102.7億円+26.1%/年
下落局面2020年3月期 → 2026年3月期(6期)102.7億円 → 124.9億円+3.3%/年

利益は増え続けています。ただし、増え方が8分の1の速さになりました。そして株価の評価倍率は6.7分の1になっています。桁としては揃っている、という見え方になります。

この対応は、「市場が21.4倍まで払っていたのは、利益そのものではなく、利益が年+26%で伸び続けるという想定だった」という読み方を素直に許します。想定が年+3%に置き換わったとき、同じ利益に対して払う値段が6分の1になった——順番として、そう並んでいます。

これはあくまで「並び方が整合している」という話で、因果を実証したものではありません。成長率の低下が評価の縮小を招いたのか、別の理由で評価が縮んだ結果として株価と成長率がたまたま同じ向きに動いたのかを、株価と決算の数字だけで切り分けることはできません。当連載では、従属量どうしの一致を「発見」として扱わないことにしています。

そのうえで、実務的な含意ははっきりしています。高い評価倍率がついている株では、減益を待つ必要がありません。「増益率が落ちた」だけで株価は半分にも5分の1にもなり得ます。この号の株価は、減益を一度も経験しないまま−82%まで下げました。新高値投資とはで扱った「業績と株価は同じ方向に動く」という素朴な想定が、いちばん激しく破れた例がこれです。

天井から−82%でも、高値更新で入った人はまだ3.9倍

この号を「大失敗の記録」として読むと、事実を取りこぼします。天井からの下落率と、高値更新で入った場合の現在地はまったく別の数字だからです。

連載10本を、ブレイク日の終値に対する現在値で並べます。

銘柄ブレイク日終値に対する現在値天井比
オリエンタルランド6.12倍−47.3%
三菱重工業4.41倍−22.7%
日本M&Aセンター3.88倍−81.8%
IHI2.90倍−41.1%
SUBARU2.79倍−49.5%
第一三共2.18倍−53.2%
三井海洋開発2.04倍−41.1%
さくらインターネット2.01倍−64.8%
コーセー1.17倍−77.7%
ペッパーフードサービス0.38倍−97.5%

天井比では連載で2番目に深く下げているのに、高値更新で入った人の現在地では連載3位です。この2つの順位が一致しないことが、この表の要点です。天井比−77.7%のコーセーがブレイク値の1.17倍しかない一方で、天井比−81.8%のこの銘柄は3.88倍を保っています。「天井から何%下げたか」は、その株を持っていた人の損益とは別の話だということです。

天井後の各年の高値も並べておきます。

その年の高値天井比
2021年3,745円−1.1%
2022年2,885円−23.8%
2023年1,787円−52.8%
2024年1,084円−71.4%
2025年813円−78.5%
2026年(8月28日まで)764円−79.8%

5年連続で切り下がっています。現在値688円は、天井後の最安値490円(2025年4月7日)からは戻していますが、2024年以降は−80%前後で横ばいです。直近のATR(14日)は13.0円=株価の1.9%と、値動きは静かになっています。市場区分はプライム、規模別ではTOPIX Mid400です。

大きく下げた株がそこから戻れるのかについては、80%下げた株はもう戻らないのかで別途データを取っています。当ブログの集計では、80%下落した銘柄が旧ピークを回復する割合は上場廃止銘柄も含めて36%・中央値で6.7年でした。この銘柄は天井から5年9ヶ月、下落率−81.8%で、ちょうどその分布の入口に立っている位置になります。

もうひとつ、2倍・5倍・10倍になった株は、その水準に留まれたのかという角度もあります。この銘柄の終値がブレイク比10倍(約1,773円)以上だったのは通算579営業日(2018年3月〜2022年12月)で、連載で確認できた範囲ではもっとも長い滞在です(ペッパーフードサービスは通算78営業日でした)。到達の記録と、定着の記録は別物ですが、この号は「10倍に到達して、そこに4年半とどまり、それでも最後は5分の1になった」という形になります。

この記録の読み方——3つの注意点

第一に、後知恵であることです。2020年12月の時点で「ここが天井で、以後6年にわたって最高益を更新しながら株価は5分の1になる」と判断するのは、ほとんど不可能だったのではないでしょうか。当時判明していた通期は増収増益、値動きにも過熱サインは出ていませんでした。翌年には天井まであと−1.1%まで戻してもいます。

第二に、選択バイアスと生存バイアスです。この連載は大きく上げた銘柄を選んで扱います。当ブログの独自データでは、初回の高値更新日の終値に対する現在値は中央値−2.2%・マイナス側が54.9%(観測期間2026年1月30日〜・含み損益ベースで実現リターンではありません)で、高値を更新した銘柄の多くはむしろ伸び悩みます。21.4倍も−81.8%も、どちらも分布の端です。

第三に、数値は観測日で動きます。株価・騰落率は2026年8月28日時点、業績は2026年3月期実績までを反映しています。最新の業績は株探などでご確認ください。また本記事は株価と公表済みの決算だけを材料にしており、業界環境の変化や個別の経営判断といった、決算の数字の外側にある材料には踏み込みません。「なぜ評価が6.7分の1になったのか」の中身は、株価データの外側にあります。

そのうえで、この記録から持ち帰れることを1つだけ挙げるなら、利益の水準だけを見ていては降りられない下落があるということでしょう。前号のペッパーフードサービスは「業績で説明のつく下落だったが、業績は降りるタイミングを教えてくれなかった」という記録でした。この号はもう一段はっきりしています。業績はずっと良かったし、いまも良い。それでも株価は5分の1です。

そして、値動きの側の手がかりも十分ではありませんでした。ブレイク日の3指標のうち、当ブログの目安を満たしていたのは出来高3.34倍だけで、25日線+26.8%は過熱の一歩手前、ベースの深さ52.4%は目安から外れています。入口の物差しは、この銘柄に「文句なしの買い」を出してはいません。そして出口では、過熱の物差しは7年半で2日しか鳴らず、天井でも二度目の高値でも沈黙していました。入口では判定が割れ、出口では最後まで何も鳴らない——これがこの号の形です。だからこそ、利確と過熱ラインで扱ったような乖離ベースの判断だけに頼らず、資金管理とポジションサイジングで扱ったように「サインが出ないまま下げ続けた場合にどこで降りるか」をあらかじめ決めておく必要がある、と考えています。

次の候補は、今日のデータから探す

当ブログでは、毎営業日の引け後に上場来高値を更新した銘柄と、更新が間近の銘柄を記録した無料のデータベースを公開しています。日本M&Aセンターを解剖したのと同じ物差し——出来高25日平均比、25日線乖離、ベースからの位置——で、その日の銘柄がどんな更新なのかを見分けられます。

👉 上場来高値データベースで条件を指定して絞り込む

あわせて読むと、この記録の位置づけがはっきりします。


免責事項:本記事は過去の株価データと公表済みの決算にもとづく観測の記録であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。記載した数値は当ブログが独自に算出した概算を含み、正確性・完全性を保証するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任において行ってください。(免責事項

タイトルとURLをコピーしました